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日本汉字字体

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? 仲間はずれの日本字体 !? ?

香港中文大学日本研究学科

兒島慶治

The isolated Japanese KANJI words style

KOJIMA Yoshiharu

Department of Japanese Studies

The Chinese University of Hong Kong

要旨

日本の常用漢字1945字を大陸?台湾?香港で使用されている標準字体と対照比較して、字体の相違を調べ、中国3地域では共通字体を持ちながら、日本だけ字体を異にするものが103字存在することを明らかにした。本論文では、日本だけが異なる字体である103字の中国字体との対照表を提示すると共に、①日本?中国双方が共に康煕字典体と異なる字体6字、②日本と康煕字典体とは同一だが、中国側が異なる字体6字、③日本独自の簡略字体と考えられる3字、④当用漢字字体表作成以前の使用痕跡が未確認の4字の合計19字種に関して、中国?日本における石碑や墓誌、古書、古字書などの中にある日本的略字体の痕跡の考察を加えた。

日本的略字体が日本と中国のいずれで簡略化されていたかを見た場合、3字を除いて、中国の唐代?宋代?清代にその簡略字形の痕跡を見る事ができた。

日本語教育でも日中の字体の差異を理解した指導が必要である事を提起したい。

キーワード;①漢字字体②日中対照比較③簡略字形

1.はじめに

日本の常用漢字1945字を中国?台湾?香港で使用されている標準字体と対応させて、字体の相違を調べてみると、中国字体とでは1165字(59.9%)、台湾字体とでは1351字(69.5%)、香港字体とでは1379字(70.9%)が日本字体との同一性を示している1。この相違の中で中国?台湾?香港という3つの中国人地域では共通の字体を持ちながら、日本だけ字体を異にするものが103字存在する。その多くの日本字体は略字体である。その為、この103字種の字体教育に関しては、中国人共通の誤記が予測できる。

本小論では、この103字の字体を紹介すると共に、特に問題となりそうな日本略字体の字源を探る試みを行った。その結果、「姫?叫?具?嬢」の4字を除いて、他の99字は昭和24年の当用漢字字体表作成以前に中国?日本の俗字等にその字形の痕跡を見る事ができた。勿論、中国に俗字として存在したからといって、その俗字がいつの時代に日本に伝

播して、日本人の日常の習慣として使用されていたかを確認しない事には、中国の俗字体と同じ字体を偶然日本人が考案した可能性を排除できない。しかし、本小論で示す中国の俗字は唐代、宋代での代表的書家の楷書体などであり、古来より日中の交流を通して、日本人にも認識されていたと考える。例えば、清(1716)「康煕字典」は、その内府本を元にして日本でも江戸の安永9年(1780)に「日本翻刻康煕字典」、いわゆる「安永本」が発行されている2。また、文化14年(1817)に江戸日本橋の書林から翻刻されている唐代?干禄字書もある3。契丹の僧?行均が選んだ「龍龕手鏡」も文禄の役(1592)の際に獲たとされる朝鮮国刻本に拠った本邦の刊本の活版があるとされる4。こうした点から、本小論での字源追求はすくなくとも、昭和24年に当用漢字字体表が作成される以前に中国または日本に当用漢字字体として採用された俗字体の痕跡があることで満足する事にした。

2.字体比較の為の標準字体の選定

日本?中国?台湾?香港の4つの地域で字体比較をする対照字体としては、各地域での政府が初等学校教育での規準としている字体を比較の標準字体に据えた。

1)日本---昭和56年(1981)に常用漢字表が制定された事を受けて、昭和56年に文

部省告示第152号で小中高校の学習指導要領の一部改正を命じ、常用漢

字表を使用する事になった5。

2)中国---1964年の中国文字改革委員会?中華人民共和国文化部?中華人民共和国

教育部の「関於簡化字的聯合通知」で、学校教育での簡化字の使用。

3) 台湾--- 中華民国82年(1993)教育部修正発布の“国民小学校課程標準”p75で「常

用国字標準字体表」6に基づいて、国字学習を行うとする。

4) 香港--- 香港課程発展議会編訂?香港教育署建議学校採用(1990)の小学課程綱

要?中国語文科?小一至小六課程綱要p67で字形は香港教育署語文教育

学院中文系編集の「常用字字形表」7に依拠するとしている。

但し、通用字体、俗字体などの異体字を確認する便宜上から、中国に関しては、中華人民共和国教育部の「関於簡化字的聯合通知」を踏まえた「現代漢語詞典」8内の字体を規準とし、日本に関しては、同じく字書「漢語林」9内の字体を規準とした。

3.日本字体だけ字体が異なる103字内の相違の概要

日本の常用漢字1945字の字体に対応する中国?台湾?香港の字体の相違を見てみると、各種の組合せを考える事ができる。①4地域共通字体、②3地域共通字体(日中台?日中香?中台香?台香日)、③2地域共通字体、④4地域不同一字体である。

2超漢字康煕字典?https://www.sodocs.net/doc/d82800073.html,/ckkouki/article.htmlの解説参照

3福井大学蔵?http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/hyoki/kanrokujisyo/参照

4龍龕手鑑(木村正辞著『欟斎雑攷』巻二)http://www.rr.iij4u.or.jp/~inagaki/shukan_s.html

5藤原宏著(1981)「注解 常用漢字表」ぎょうせい社発行、p438-439

6 台湾?常用国字標準字体表:中華民国83年7月第4版第12次印行?正中書局?教育部研訂公布

7 香港?常用字字形表(修訂本):1990年?香港政府印務局複印?香港教育署語文教育学院中文系編

8 現代漢語詞典:1987年6月第2版第83次印刷?商務印書館出版?中国社会科学院語言研究所詞典編輯室編

本小論ではこの中国?台湾?香港の3地域共通字体と日本字体の異なり方を見てみた。この部分の異なり数は103字で、全体の5.29%にあたる。兒島(2003)「日本?中国?台湾?香港における漢字字体の共通性と相違性」では、この部分の異なり数を104字としてあるが10、その後の考察で、「坂」字の台湾字体は、台湾?国字標準字体宋体母稿(教育部編印)によると、日本字体と同じであった11。従って、今ここに103字に改めて議論する。

本小論で選択した103字は以下の字種である。その多くは康煕字典12内で俗字として紹介してあったり、唐代の俗字?通用字?正字を整理した干禄字書で通用字?俗字とされたり、唐代、宋代の著名な書家の石碑、帖、詩などに使用された俗字であったりする。正確には、99字に関しては、中国?日本での何らかの資料の中に日本の常用漢字字体と同一性のある字形の痕跡を見出すことができたと言える。ただ、「姫?叫?具?嬢」の4字に関しては、常用漢字字体の基礎となった当用漢字字体表作成以前の使用痕跡を見出していない。この点に関しては、後に述べる。

壱?逸?晩?勉?免?仮?雅?慨?概?邪?灰?悔?海?毒?梅?繁?敏?侮?毎?隔融?喝?渇?褐?掲?巻?圏?港?包?抱?泡?陥?稲?喫?虐?叫?勤?契?恵?穂渓?碁?効?勅?降?瞬?舞?黒?僧?増?憎?黙?墨?査?砕?粋?酔?酢?姉?舎収?臭?突?所?乗?剰?壌?嬢?植?殖?値?置?直?具?真?慎?疎?巣?唐?糖徳?隆?覇?拝?博?敷?簿?卑?碑?鼻?姫?氷?払?仏?雰?弁?予?旅?歩?渉冒?帽?勇(以上103字)

中国3地域共通字体の殆どが康煕字典体であり、日本常用漢字字体が中国などの資料に存在する俗字体や通用字体を採用している中で、①日中ともに康煕字典体と異なる字体が6字、②日本と康煕字典体とは同一だが、中国側が異なる字体が6字、③おそらく日本での簡略化の字体が3字、④日本略字体の痕跡未確認が4字(姫?嬢の2字は①と重複する)という分類を示す事ができる。

3.康煕字典

漢字の字体を考える場合の基礎的規準となるのが康煕字典である。この(康煕)字典には張玉書ら編纂した清?康煕55年(1716)の「内府本」と、王引之らが清?道光7年(1827)に訂正した「道光本」がある。現在出回っている中華書局同文書局本(1958)などは、「内府本」を元に翻刻されている為に、王引之らが誤りを訂正して作った『字典考証』を巻末に付け加えた形になっている13。一方、「道光本」は2,588箇所の訂正を巻末追加の形ではなく、「内府本」本文の記述を変更した形式になっている。例えば、字典子集上考証?一部二画の「下」には、“爾雅釋訓下落也謹照原書釋訓改釋詁“としている。そこで「内府本」

10兒島慶治(2003)「日本?中国?台湾?香港における漢字字体の共通性と相違性」『比較文化研究No.62』p71

11 国字標準字体宋体母稿<教育部編印>:中華民国87年2月?台湾教育部編p25

12 王引之校改本/康煕字典:1998年2月第1版第5次印刷?上海古籍出版社出版?[清]張玉書等編撰,王引之等

校訂

を見ると、“爾雅釋訓下落也”14となっているのに対して、「道光本」では、“爾雅釋詁下落也”15と訂正されているのである。また、「内府本」と「道光本」とでは、字体の違いが生じている場合もある。例えば、「内府本」毛部10画の“苔+毛”字は16この字体だと毛部の9画になるために、「道光本」では“荅+毛”形に訂正して、毛部10画に収めている17。

また、同じ明朝体活字形でも内府本と道光本とでは微妙な差異がある事も指摘されている18。同じ様な事は、道光本の親字と説明文の字体との間においても起こっている。例えば、康煕字典親字「牙」形は4画であるが、その説明で使用されている字体は「牙」形の5画と判断される字形がある19。本小論では、『字典考証』での煩わしい確認を避けて、直接訂正がなされている1998年2月第1版第5次印刷された上海古籍出版社出版の王引之校改本/康煕字典を使用することにした。

4.日中ともに康煕字典体と異なる字体

本小論で取扱う103字の中で、日本?中国?台湾?香港の字体が漢字字体の拠所となっている康煕字典体と異なる字体であって、しかも日中でその異なり方が違う字体が、「真?慎?姫?喫?嬢?隔」の6字ある。尚、以下出典資料の中で康煕字典は“康煕”、現代漢語詞典は“現代”、漢語林は“漢語林”として、その後のp×××は各資料のページ数を示す。台湾?常用国字標準字体表は“台湾”、香港?常用字字形表は“香港”として、その後の数字は各表内の通し番号を示している。中国?台湾?香港をまとめて「中国側」と示す。

(一)“真”字に関して

康煕p814---眞

現代p1466

台湾2768 真:香港の備考欄に「或作眞,今作真」と記載がある。

香港2746

漢語林p700 --- 真

中国側と日本との差は、「真」の真中の「目」形が下の線に付いている(中国側)か否(日本)かである。この二つの形は唐楷書字典の欧陽詢?化度寺碑や欧陽通?道因法師碑では“真”形であり、褚遂良?雁塔聖教序や薛曜?夏日遊石淙詩では“真”形を見出せる20。

(二)“慎”字に関して

14 康煕字典:中華民国82年11月出版?泉源出版社p4

15王引之校改本/康煕字典:1998年2月第1版第5次印刷?上海古籍出版社出版p2

16 康煕字典:中華民国82年11月出版?泉源出版社p523

17 王引之校改本/康煕字典:1998年2月第1版第5次印刷?上海古籍出版社出版p581

18「ことば」シリーズ7言葉に関する問答集3:昭和52年(1977)?文化庁p27-28?「糸」形に関して

19 王引之校改本/康煕字典:1998年2月第1版第5次印刷?上海古籍出版社出版p691

康煕p362 ---愼

現代p1021

台湾1408 慎:香港の備考欄に「右偏旁或作眞,今作真」と記載。

香港1394

漢語林p384 --- 慎

日中の差異は、唐楷書字典の欧陽詢?温彦博碑に“慎”形があり、欧陽詢?樊興碑に“慎”形を確認できる21。

(三)“姫”字に関して

康煕p211 ---女+(巸-巳)

現代p524

台湾0932 姬

香港0918

漢語林p258 --- 姫

「姫」は“つつしむ”の意で「姬」は"きさき、めかけ”の意で、本来2つの字体は別字であるとされる22。康煕字典でも新字体「姫」と同形の記載あるが、「女+(巸-巳)」形とは別字扱いをしている23。ただ、日本の常用漢字体の形が康煕字典にあるとしても、常用漢字体の「姫」形が本来の“つつしむ”から「姬」形と同様の“きさき、めかけ”の意義での変化の使用例の痕跡を見出していない。

ただ、唐楷書字典女部「姬」字の箇所に、春秋左伝昭公に「女+巨」形や、霍漢墓誌、春秋穀梁伝集解に「女+臣」形で「臣」の中上の縦線が欠けた形を例示してある事などから24、かなり以前から「姫」形を使用していたと推定できる。中国の書法字典の「姬」字を引くと、欧体?顔体?隷体?行体の何れにも「姫」形を示す字書もある25。

(四)“喫”字に関して

康煕p143 ---喫

現代p141

台湾0510 吃

香港0503

漢語林p172 --- 喫

漢語林は飲食の意で「喫」と「吃」を同字とする。現代は「喫」を「吃」の異体字とする。台湾は「吃」を標準字、「喫」を通用字とし、香港は「吃」を標準字、「喫」を異体字

21 唐楷書字典:2004年?梅原清山編?天津人民美術出版社p324

22 漢語林:昭和62年4月1日初版発行?大修館書店p258

23 王引之校改本/康煕字典:1998年2月第1版第5次印刷?上海古籍出版社出版p211

24 唐楷書字典:2004年?梅原清山編?天津人民美術出版社p214

とする。香港?台湾共に「喫」形を備考欄で紹介しているが、独立した親字として表には掲載していない。康煕字典の「吃」p113では「與喫同」の記載ある。康煕字典?現代(異体字)?台湾(通用字)?香港(異体字)?旧字体の「喫」形は、中上が「丯」形で、縦線が下に突き抜けている形である。勿論、日本の表外字として「吃」字はある26。但し、「喫」形ではない「喫」形の字体使用の痕跡を明確には見出せていないが、玉篇口部“喫”字形は、新字体と同様の「丯」形の縦線が下まで突き抜けていない字形である27。

また、「契」字に関して、唐楷書字典に紹介する欧陽詢?化度寺碑、褚遂良?雁塔聖教序、王知敬?李靖碑、顔真卿?干禄字書などの多くの事例では、「丯」形の縦線が下まで突き抜けていない新字体同様の字形である28。

(五)“嬢”字に関して

康煕p226 ---孃

現代p832

台湾0927 娘:香港の備考欄に「或作孃,今作娘」と記載。

香港0914

漢語林p263 --- 嬢

漢語林の「娘」字の説明に「中国では娘は嬢の略字として用いる」とある。現代は「孃」字を「娘」の異体字とする。台湾の「娘」字の備考欄に「孃」に関する記載はない。但し、「孃」字は台湾の次常用国字標準字体表に記載がある29。香港の「娘」の備考欄では「孃」字形を異体字とする30。康煕字典ではp213に「娘」形が、p226に「孃」形があり、「孃」字の説明で「又同娘」とする。尚、何華珍(2004)「日本漢字和漢字詞研究」では、「嬢」字を中国の俗字と紹介しているが31、その出典根拠を示していない。「孃」形ではない「嬢」形の当用漢字字体表作成以前の使用痕跡例をまだ見出せていない。

(六)“隔”字に関して

康煕p1432 ---隔の右下が「メ」に「T」の形

現代p371

台湾4438 隔

香港4396

漢語林p1067 --- 隔

漢語林「隔」の旧字体は右下が「メ」に「T」の形であり、康煕字典も旧字体と同じ字体である。台湾の常用国字標準字体表の部首索引十画では「鬲」形で新字体と同形であるが、

26 漢語林:昭和62年4月1日初版発行?大修館書店p172

27大広益玉篇巻第五?口部?京都大学附属図書館所蔵?

http://ddb.libnet.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/i187/i187cont.html

28 唐楷書字典:2004年?梅原清山編?天津人民美術出版社p206

29 台湾?次常用国字標準字体表:中華民国71年12月?正中書局?教育部研訂公布p37

30 香港?常用字字形表(修訂本)p96

本文4690番「鬲」は「ソ」形を示し、表記上の混乱を表している。唐楷書字典p833“隔”字形に関して、孔穎達碑は旧字体と同形を記載している。

大字典「隔」字は右下が「メ」に「T」の形を親字として記載しているが、解説文及び例示の熟字の字形では「隔」形が使われている32。この点から、少なくとも当用漢字字体表作成以前には「隔」形の使用痕跡を認める事ができる。

また、康煕字典?鬲部の字形は全て新字体と同様の「鬲」形である。又、康煕字典?鬲部“鬲”の解説に、「五経文字説文作(鬲の右下が「メ」に「T」の形)経典相承作鬲」とある事から33、以前から3種の“鬲”が使用されていて、“隔”字にも3種類の書法があった事が推測できる。ここから「隔」字に関してもかなり以前からの使用があったものと推測できる。

5.日本と康煕字典体とは同一だが、中国側が異なる字体

中国?台湾?香港の中国側3地域が揃って俗字体を採用している結果、正字を採用した日本と差がでた字体として「植?殖?値?置?直?融」の6字を挙げることができる。

(一)“植?殖?値?置?直”字に関して

康煕---p513“植”、p564“殖”、p38“値”、p973“置”、p808“直”

現代p1484?台湾1968?香港1945 --- 植

現代p1485?台湾2084?香港2067 --- 殖

現代p1485?台湾0179?香港0178 --- 值

現代p1492?台湾3205?香港3183 --- 置

現代p1483?台湾2759?香港2737 --- 直

漢語林 --- p518“植”、p548“殖”、p84“値”、p801“置”、p696“直”

「直」に従う常用漢字では全て「L」形の「直」形となっている。

漢語林「植」には特に他の字体に関しての記載はない。香港の“植”字の備考欄に「右偏旁或作直,今作直」との記載がある。康煕字典は常用漢字と同様の「植」形である。

漢語林「殖」には特記がないが、香港の“殖”字の備考欄に「右偏旁或作直,今作直」と記載がある。康煕字典は常用漢字と同様の「殖」形である。

漢語林「値」には特に他の字体に関しての記載はない。台湾の“值”字の備考欄に「本作直,今作直」と記載がある。香港の“值”字の備考欄にも「右偏旁或作直,今作直」と記載がある。康煕字典は常用漢字と同様の「値」形である。

漢語林「置」には特に他の字体に関しての記載はない。香港の“置”字の備考欄に「下或作直,今作直」と記載がある。康煕字典は常用漢字と同様の「置」形である。

漢語林「直」には特に他の字体に関しての記載はない。台湾の“直”字の備考欄に「本作直」と記載がある。香港の“直”字の備考欄に「或作直,今作直」と記載がある。康煕字

32 大字典:大正年初版発行?昭和50年第14印刷発行?講談社?編集者/上田万年?栄田猛猪?岡田正之?飯田

伝一p2371

典p809では「直」形であり、「俗作直非」とある。

唐楷書字典の褚遂良?倪寛伝賛、顔真卿?顔勤礼碑、柳公権?魏公先廟碑などには“直”形が殆どで、“直”形は九経字様の例があるだけである34。

(二)“融”字に関して

康煕p1137 ---融

現代p969

台湾3670 融

香港3670

漢語林p1130 --- 融

康煕字典p1137「融」字は新字体と同形であり、「鬲」部分に関して「隔?融」間で「鬲」形の扱いに違いがある。中国側の“融”字は左が「ソ+T」形の「鬲」形である。

唐楷書字典では、“融”字形に関して、欧陽通?道因法師碑に「メ」形と「ソ」形の双方を提示してあるが、「鬲」形の提示はない35。

6.日本での簡略化の字体か

簡略化された103字の常用漢字の字形の痕跡の殆どが中国の俗字にある事が各種の資料で確認できたのであるが、「払?弁?予」字の3字に関しては若干の考察を必要とする。

(一)“払”字に関して

康煕p392 ---拂

現代p339

台湾1528 拂

香港1514

漢語林p400 --- 払

漢語林は“拂”字を“払”字の旧字体とする。現代、香港、康煕ともに「拂」形のみを提示している。他方、漢語林“佛”は“仏”の旧字体であり、“仏”形は宋?元の俗字であるとしている。康煕字典“仏”字に「〔正字通〕古文佛字」と記載があり36、常用漢字表の基礎なった当用漢字字体表を昭和24年に作成する過程で、字体の統一性の観点から、旁の「弗」は「佛?拂」では「仏?払」と略体を採ったと理解されている37。尚、何華珍(2004)が「"ム”為"弗”的省文符号---日本常用漢字作---"拂”省作"払”」としているのは38、厳密に見ると常用漢字ではなく、当用漢字字体表とすべきである。

大正6年初版の大字典で“払”形を略字として紹介している39点や、倭楷正訛の倭俗の

34 唐楷書字典:2004年?梅原清山編?天津人民美術出版社p553-554

35 唐楷書字典:2004年?梅原清山編?天津人民美術出版社p695

36 王引之校改本/康煕字典:1998年2月第1版第5次印刷?上海古籍出版社出版p20

37藤原宏:注解常用漢字表?ぎょうせい社p288

38 何華珍:2004年?日本漢字和漢字詞研究?中国社会科学出版社p128

省文として例示してある中に“払拂”があることから40、江戸?明和期(1764)以前から“払”字形が存在していたといえる。

(二)“弁”字に関して

康煕 ---弁(p316)?辨(p1313)?辯(p1314)?瓣(p747)

現代---弁(p69)?辨(p65)?辩(p65)?瓣(p30)

台湾---弁(1239)?辨(4105)?辯(4108)?瓣(2613)

香港---弁(1225)?辨(4073)?辯(4075)?瓣(2593)

漢語林---弁(p334)

漢語林では「弁」は旧字体「辨?瓣?辯?弁」字の共通簡略字体としている。ただ、「辨?瓣?辯」字の簡略使用として「弁」形がいつ頃から使われたかについては、同文通考巻四?借用の箇所で「弁辨音相近借作辨辯等字」としている41。尚、台湾の“辨”字の備考欄に「中従刀,今書作リ」とあり、“辧”形を排除している。漢語林も“辧”形を本字として紹介している。

(三)“予”字に関して

康煕 ---予(p13)?豫(p1250)

現代---予(p1411,1413)?豫(p1416)

台湾---予(0047)?豫(3918)

香港---予(0046)?豫(3886)

漢語林---予(p334)

漢語林では「予」字は「予?豫」の共通簡略字体としている。大字典「予」字の注意の欄に「俗に豫の略字として用ふ」と記載があるとこから42、少なくとも昭和24年の当用漢字字体表ができる前に、俗字としての使用があったことが分かる。尚、香港の「豫」字の備考欄に右上の形は「奐」の「大」の上部分の形もあるが、今は「免」の上部分の形を取ると注がなされている。

7.当用漢字字体表作成以前の使用痕跡未確認の日本略字体

本小論の103字中の「姫?叫?具?嬢」の4字に関しては、これら略体の当用漢字字体表作成以前の使用痕跡を見出していない。但し、「姫?嬢」の2字は日中ともに康煕字典体と異なる字体であり、この2字に関しては既にその状況を述べたので、ここでは「叫?具」の2字の状況を見てみたい。

伝一p934

40倭楷正訛?信陽大宰純著?明和新刻版?https://www.sodocs.net/doc/d82800073.html,/image/wakaiseika.pdf

41 同文通考巻四?新井白石?板本/新井白蛾補?https://www.sodocs.net/doc/d82800073.html,/article/4461699.html

42 大字典:大正年初版発行p57

(一)“叫”字に関して

康煕p111 ---叫

現代p572

台湾0491 叫

香港0486

漢語林p172 --- 叫

「叫」字は康煕字典と中国側の字体とが同一の口部の2画であるのに対して、日本?漢語林の新字体では口の3画になっている。2画の「叫」形は旧字体であるとする。この点では103字中の他の多くの字種と同じく日本だけが康煕字典体と異なるものである。しかし、何故旧字体で口部2画の字体の画数を増やして新字体で口部3画の字体にしたのであろうか。この疑問は「収」字にも起こる。旧字体?康煕?中国の「收」字の右は2画であるが、新字体「収」の左は3画である。康煕字典「收」字の解説に「五経文字作収訛」とあり、そこでの「収」の左は3画と見る事ができるし、説明文中の「收」字の字形に左が3画と捉えられる字形もある43。又、康煕字典牙部牙字の説明文中や牙部3画(牙+子)、6画(牙+艮)の親字字形にも、本来4画の「牙」形であるのに、5画の「牙」形に見えるものがある44。

更に、この「叫?収」の画数に関しては、常用漢字表案を作る段階でも問題があったようである。藤原宏(1981)では「---常用漢字表案でもこの排列方式にすることにした。ただ、この場合、同音の場合はおおむね字画の少ないものを先に提出することにしたが、画数の上で問題のある漢字がある。これらについては、一応次のような数え方を採用することにした。」として、「収=4画(収-又)の部分は2画とする」「叫=6画(叫-口)の部分は3画とする」と記述している45。

これらの事から、「叫」の右の形には、2画と3画の書法があるようだが、新字体同様の口部3画の「叫」形の具体的使用例を見つけ出せないでいる。

(二)“具”字に関して

康煕p61 ---具

現代p614

台湾0291 具

香港0288

漢語林p108 --- 具

「具」字は康煕字典?中国側?日本の新字体の字体が全て八部の6画である点は共通しているが、康煕字典?中国側の字体?旧字体は「目」の下が接続した字体の「具」形であるのに対して、常用漢字では「目」の下が接続していない「具」形である。では、何故新字

43 王引之校改本/康煕字典:1998年2月第1版第5次印刷?上海古籍出版社出版p440

44 王引之校改本/康煕字典:1998年2月第1版第5次印刷?上海古籍出版社出版p691-692

45 藤原宏著(1981)「注解 常用漢字表」ぎょうせい社発行、p306-307

体が「目」の下が接続を離したのであろうか。一つには当用漢字字体表が「植?殖?值?置?真?慎」の俗字体を採用せず、「植?殖?値?置?真?慎」形を採用した事と関連して、字体の統一を図る上で、「具」形から「具」形へ変えたのではないか。他方、新字体の「具」形は、唐楷書字典の「具」字の記載例の中の柳公権?金剛経刻石に示された字形を“具”形の使用例と見る事ができるかもしれない46。

8.まとめ

漢字の字形の正俗の規準に康煕字典を用いる事に関しては、賛否いろいろな意見があるようであるが、本小論の目的は、日本?中国?台湾?香港という漢字使用文化の地域における各地域の字体の相違を明らかにして、日本の簡略化された常用漢字字体が果たして昭和24年の当用漢字字体表作成時に考案されたものなのか、それ以前に中国や日本で通用字体や俗字として使用されていた痕跡があるかどうかを見ようとしたものであるから、日本?中国?台湾?香港の4地域の差異を引き立たせる役割として康煕字典を利用したに過ぎない。

103字内の日本の簡略字体は、伝統と習慣を踏まえて採用された字体であるから47、結果から言えば、昭和24年の当用漢字字体表作成以前に日本国内で使用習慣があった字体であるはずである。それが日本で簡略化されたものなのか、中国で既に簡略化されていたのであるかを見た場合、多くが中国の唐代?宋代?清代にその簡略字形の痕跡を見る事ができた。「姫?叫?具?嬢」の4字に関しては、明確な形で確認はできなかったものの、間接的な資料から、何れも中国の俗字として存在していたといえた。このように考えると、中国?台湾?香港の中国人に全く馴染みのない字体としては、「払(拂)?弁(辨,辯,瓣)?予(豫)」の3字であろう。

日本語教育での漢字字体教育では、こうした日中の字体の差異を十分理解した上で、指導に当たらないと、日中の字体を混同した学習者を放置したままになってしまう。

46 唐楷書字典:2004年?梅原清山編?天津人民美術出版社p90

<参考資料>日本?中国?台湾?香港の4地域の中で、日本だけが異なる字体の一覧表【日本】【中国地域】 【日本】【中国地域】【日本】【中国地域】壱 壹 叫 叫 値 值

逸 逸 勤 勤 置 置

晩 晚 契 契 直 直

勉 勉 恵 惠 具 具

免 免 穂 穗 真 真

仮 假 渓 溪 慎 慎

雅 雅 碁 棋 疎 疏

慨 慨 効 效 巣 巢

概 概 勅 敕 唐 唐

邪 邪 降 降 糖 糖

灰 灰 瞬 瞬 徳 德

悔 悔 舞 舞 隆 隆

海 海 黒 黑 覇 霸

毒 毒 僧 僧 拝 拜

梅 梅 増 增 博 博

繁 繁 憎 憎 敷 敷

敏 敏 黙 默 簿 簿

侮 侮 墨 墨 卑 卑

毎 每 査 查 碑 碑

隔 隔 砕 碎 鼻 鼻

融 融 粋 粹 姫 姬

喝 喝 酔 醉 氷 冰

渇 渴 酢 醋 払 拂

褐 褐 姉 姐/姊 仏 佛

掲 揭 舎 舍 雰 氛

巻 卷 収 收 弁 弁辨辩瓣 圏 圈 臭 臭 予 予/豫 港 港 突 突 旅 旅

包 包 所 所 歩 步

抱 抱 乗 乘 渉 涉

泡 泡 剰 剩 冒 冒

陥 陷 壌 壤 帽 帽

稲 稻 嬢 娘 勇 勇

喫 吃 植 植

虐 虐 殖 殖

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